平成20年度 

「建築士の日」の事業 第10回「こだわり住宅賞」入賞作品

≪(社)滋賀県建築士会 会長賞≫坂本 桂藏 邸

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 建築士の施主が、老後の生活の場として永年にわたり探し求めていた場所が、旧石山寺境内の一角で入手することができた。
 この敷地に接した前面道路は、敷地との境界に残る道標に刻まれているように、石山寺から京都清水寺奥の院への参詣古道で、現在は東海道自然歩道になっている大変由緒のある土地である。また、この環境は、施主が生まれ育った京都の原風景ともよく似た環境で、大変お気に入りの場所であった。
 計画に当り、この石山寺の好環境に如何に調和のとれた住まいづくりをするかが一番の課題であった。そこで京都の原風景の寺屋敷の庫裡をモチーフに日本の伝統様式と工法にあくまでもこだわった住まいづくりを考えた。
 施主・設計者・施工者がこのコンセプトの実現に向けて十分コンセンサスをはかり、和の伝統建築の実現と伝承に取り組み、初期の目的を達することができた。
 特にその中で在来工法では、卓越した技術と豊富な経験が必要であり、幸いにもその匠の技を持った棟梁の参画がこのこだわり住宅の原動力となった。
 建物に使用した素材はほとんど地元産にこだわり、施工も地元の職人の手で、まさに地産・地消の作品である。
 外観の意匠も環境への配慮が十分生かされていて、日本の風土に根ざした在来工法の魅力が伝わってくる。時に二階大屋根に設けられた越尾根風の煙出しはこの建物のアクセントとして外部デザインの質の向上に一役買っている。
 室内はリサイクルとして古い解体材を、玄関の吹き抜け空間に化粧梁として利用し、その構造美は見事であり、この空間の寸胴型提灯のあかりは独特の雰囲気を醸し出している。
日本の風土の中で一際目を惹く在来工法による住まいは、日本人の心の故郷ではないだろうか。日本人としてその伝承に今一度振り返る必要があるのではないだろうか。この作品はまさに(社)滋賀県建築士会会長賞に相応しいものである。

審査委員長 本 城 博 一